東京高等裁判所 昭和26年(う)5018号 判決
原判決が判示(二)(三)の事実の認定に援用した前川利雄の検察官に対する供述調書を見るに、該調書には取調者である浦和地方検察庁検察官検事服部良一の署名捺印のあることを認めることができるのであるが、該調書に署名捺印し、且つ契印及び挿入削除部分に押印している武野谷弘男が公務員であるかどうかは調書上明らかでないこと所論の通りである。しかし原審第四回公判調書の記載と中野実の検察官に対する供述調書に依ると、右前川利雄の検察官に対する供述調書と同様に、原審検察官が原審公判廷において証拠として取調を請求した中野実の検察官に対する供述調書中にも武野谷弘男の署名捺印があり、同人は浦和地方検察庁川越支部所属の検察事務官であることを認めることができるのであるから、右前川利雄の検察官に対する供述調書中にある武野谷弘男は、記録上同庁所属の検察事務官であることが認められ、しかも、同人は該調書を作成する際検察事務官の官名の記載を遺脱したものであることが認められるのである。しからば、該調書は刑事訴訟規則第五十八条に違背したものであるといわねばならないのであるが、同条所定の方式に違背した供述調書は常に必ずしも所論のように証拠能力のないものと解すべきものではなく、方式の違背が取調手続の適否、延いては記載の正確性そのものの信憑力に影響を及ぼすかどうかに依り、調書の有効無効を定めるべきであつて、前川利雄の右供述調書は前記のようにその作成者である検察事務官武野谷弘男が官名を遺脱した以外は、すべて前示法条に定める方式に従い作成されたもので取調手続は適法になされ、その記載も正確性を欠くものと認められないのであるから、これを無効のものというべきではなく、且つ原審第四回公判調書の記載に依ると、被告人の原審弁護人は、原審公判廷において右供述調書を証拠とすることに同意していることを認めることができるのである。しからば、右供述調書は前示法条に違背した点があるにしてもその証拠能力を否定しなければならないものではないから、原判決がこれを事実認定の証拠に援用していることは、所論のように採証上の違法があるものではない。それ故論旨は理由がない。